META NAME="ROBOTS" CONTENT="NOINDEX,NOFOLLOW,NOARCHIVE" 脱「テレビ」宣言・大衆演劇への誘い 付録・邦画傑作選・「兄いもうと」(監督・木村荘十二・1936年)
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2019-01-11

付録・邦画傑作選・「兄いもうと」(監督・木村荘十二・1936年)

 ユーチューブで映画「兄いもうと」(監督・木村荘十二・1936年)を観た。多摩川の川師・赤座一家の物語である。川師とは、洪水を防ぐために川の流れを堰き止めたり、川底に石を敷いて流水の勢いを弱めたり、用水路を整えたり、といった河川管理を生業とする。父の赤座(小杉義男)は数十人の人足を束ねる現場監督だ。気性は荒く、「褌が乾いている」人足や、楽をしようと蛇籠に軽い石を選んでいる人足を見ると、容赦なく打擲する。一方、母のりき(英百合子)は、温和で優しく、人足たちからは「いい、おかみさんだ」「まったくだ、嬶仏よ」と慕われている。この夫婦に三人の子どもがいた。
 兄・伊之(丸山定夫)、長妹・もん(竹久千恵子)、末妹・さん(堀越節子)である。伊之は腕のいい石材職人だが、仕事も気ままで、遊び好き、ある晩など馴染みの女を連れて来て父に見つかりそうな所を、妹のもんに助けられたことがある。もんは東京にある寺の奉公に出ていたが、その時、学生の小畑(大川平八郎)と恋仲になり身籠もった。その後、小畑は故郷に逃げ帰り、もんは捨てられて、やむなく実家に戻って居る。さんは、純情可憐な乙女の風情、学者先生の家に女中奉公の身である。
 身重になったもんが実家で休んでいると伊之が帰ってきた。縁側には、(さんも来ているようで)さんが持参した(母宛の)土産の駒下駄が置いてある。彼はそれを取り上げ一瞬顔をほころばせ、もんの寝姿を見て、そこに日が当たらないように簾を下ろす。気がついたもんが「何だ、兄さんか」と言えば「さんが来たのか」「ええ」「お前の男から手紙が来たか」「いいじゃないのそんなこと、来たって来なくたって」「てめえ、そんな体にされて、うっちゃられやがって」「人のこと心配しなくたっていいわよ」といったやりとりが次第にエスカレート、二人は激しく罵り合う。戻って来た母・りくが「怒っていいときと、悪いときがあるんだ。怒ってもらいたければ父さんにしてもらえばいいんだ。父さんはじっと黙っていなさるんだもの。今はもんを静かに休ませる時なんだよ」となだめる。もんは「父さんは、お前のことはお前が“かたをつけろ”、顔も見たくないと言う、兄さんから何を言われても頭痛がするばかりで、どうしていいかわからない」と呟く。その時、家の前を馴染みの郵便局員が「よう、もんちゃん。今度は長い逗留だね。こんなに暑くっちゃ、町にも出られないや」と言って通り過ぎた。黙って見ている伊之、もんは「なあに、女一匹、何をしたって食べていけるんだ!」と決意したが・・・。 それから1年が過ぎた。もんが身籠もった子どもは死産、今では五反田の花街で働いている。そんな折、赤座の家に小畑が訪ねてきた。応対に出たもんの父に向かって「いろいろと御迷惑をおかけしたことをお詫びして、さっぱりしたい」と言う。父は激昂する気持ちを抑え、「小畑さん、今回はお前さんの勝ちだったが、今後、こんな罪作りなことはおやめなせい」と言い、仕事場に戻っていく。小畑は母に名刺と金を手渡し帰路に就くが、帰り道、伊之が追いかけてきた。「オレはもんの兄だが、ちょっと話がある」と林の中に誘う。「オレともんは兄妹以上に仲がよかったんだ。1年前、もんに辛く当たったのは、オレが盾になって、世間の目から守るためだ。お前のおかげでもんは自暴自棄、どうしようもない女になってしまった」と小畑に鉄槌を下し、足蹴にした。それでも無抵抗で倒れ込んだ小畑に「あんたも妹がいればオレと同じことをしただろう」と助け起こし「お前、大丈夫か」と気遣う様子が、何とも男らしく、私の涙は止まらなかった。
 それから1週間後、もんが久しぶりに実家に帰ってくる。見るからに厚化粧、バスの中ではタバコを吹かし、なるほど一端の商売女に変貌していた。橋の上で、さんを見つけるとすぐさま車を降り、姉妹が連れ立って懐かしい我が家へと向かう。途中で交わす、もんの話はもっぱら男、「お前が奉公している御主人様は変な目で見ないかい?」「ハハハハ、御主人様は学者で、禿げているのよ」。二人を優しく出迎える母、もんに「七日ばかり前に小畑さんが訪ねてきたよ」。もんは一瞬驚くが「御苦労様なこと、あの人、もう来なくてもよかったのに。お父さんと会ったの?乱暴しなかった?」「ああ、相手をいたわるようだったよ。昔なら殴っていただろうけれど、ずいぶん温和しくなったね」という言葉を聞いてホッとしたか、「でもちょっといい男だったでしょう?」。「呆れるよ、この子は」
「兄さんには会わなかったでしょうね」「伊之には、会わなかったと思うよ」。
 だがしかし、伊之が昼食のために帰宅した。もんの姿を見るなり「自堕落女め、またおめおめと帰って来やがったのか!・・・どこかで泥臭い人足相手に騒いでいた方がいいぜ。ここはこう見えても堅気のウチなんだから」と毒づいた。母やさんが「帰ってくるなりそんなことを言うもんじゃない」と取りなすが「この前、来た野郎もそうだ、来れた義理でもないのに、こっちを舐めているから、のこのことやって来れるんだ」。その言葉を聞いたもんの表情が変わった。「小畑さんに会ったの?」「ああ、会った」「何をしたのあの人に、乱暴したんじゃないわよね」「思うだけのことをしてやった。蹴飛ばしたが、叶わないと思ったか手出しをしねえ、オレは胸がすうっとしたくらいだ」「もう一度言ってごらん、あの人に何をしたというの」「半殺しにしてやったんだ」「えっ、半殺し?」その言葉を聞いて、もんの心は張り裂けたか、傍にあったタバコの箱を投げつけると、伊之に掴みかかった。「誰がそんなことをお前に頼んだ。手出しをしないあの人を何で殴ったり蹴ったりしたんだ。この卑怯者! 極道者!」と叫びながら引っ掻く、「痛え、このあま!」と突き飛ばされても果敢に掴みかかったが、庭先に叩き出され「さあ殴れ、さあ殺せ」と居直った。「やい!はばかりながらこのもんは、ション便臭い女を相手にしているお前なんぞとは違う女なんだ」「やい、石屋の小僧!それでもお前は男か。よくも、もんの男を打ちやがったな。もんの兄貴がそんな男であることを臆面もなくさら出し、もんに恥をかかせやがったな、畜生、極道者!」という啖呵に、伊之は応えられない。母に「いいからこの場を外しておくれ」と言われ「畜生!とっとと失せろ」と捨て台詞を吐いてその場から立ち去った。用意されている昼食を掻っ込むが、気持ちは収まらず庭に出る。棒立ちで泣いている。男泣きに泣いている。その姿には「もん、お前はどうしてそんな女になってしまったんだ」という心情が浮き彫りされているようだ。もんも泣いている。さんも泣いている。母はしみじみと「もん、お前は、大変な女におなりだねえ」と嘆息する。「そうでもないのよ、お母さん。心配しなくたっていいわ」「でも、あれだけ言える女なんて初めてだよ。後生だから、堅気の暮らしをして、女らしい女になっておくれ」「あたし、お母さんが考えているほどひどい女になりはしないわ」
 母は箪笥から小畑の名刺を取りだし、おもんに手渡す。もんは一瞥して名刺を破り捨てた。「こんなもん、私にはもう用はないわ」。「私がこの家に戻るのは、時々、お母さんの顔を見たくなるから、あんなイヤな兄さんでも顔を見たくなるのよ」。その声が聞こえたかどうか、伊之はまだ泣きながら職場へと戻って行った。  そんな修羅場を見ることなく、父の赤座は船の中、数十人の人足を率いて「夏までに仕事を延べて続けるんだ。その気持ちのある奴は手をあげろ!」「おおおう」と全員の手が上がるのを見届けて、現場に赴く。威勢よく船を降りる人足たちの水しぶきを映しながらこの映画は「終」となった。
 この映画の見どころは、何と言っても名優・丸山定夫が演じた伊之という男の魅力であろう。妹・もんとは「兄妹」以上の仲、その妹が書生っぽの若造・小畑に汚され、自堕落になっていく。何とか立ち直ってほしいと思うが、どうすることもできない。そのやるせない気持ちが、二つの修羅場に漂っている。言動は粗暴だが、心根は優しい。そんな兄を知り尽くしているおもんだからこそ、思う存分、伊之に毒づくことができるのだ。もんを演じた竹久千恵子の実力も見逃せない。全体を通して、小畑への恋慕が一途に貫かれている。とりわけ、修羅場では、兄を慕い、その兄が自分のために弱い者いじめをしている情けなさが、「兄貴がそんな男であることを臆面もなくさら出し、もんに恥をかかせやがったな」という言葉の中に感じられる。《私の兄貴は本来、そんな男ではなかったはずなのに》という思いは、伊之が《オレの妹は、そんな女であるはずがない》と思う気持ちと重なる。伊之は小畑を「半殺し」にしたわけではない。「お前、大丈夫か」と気遣い、帰りの停留所まで教えてやる、優しい心根の男なのである。しかし、もんはそのことを知らない。そうした行き違いの悲劇を竹久は見事に描出しているのである。
 この原作は、戦後、監督・成瀬巳喜男によっても映画化されている。そこでは、伊之・森雅之、もん・京マチ子、父・山本礼三郎、母・浦辺粂子、さん・久我美子、小畑・船越英二という配役で物語が展開する。時代背景も戦後に手直し、さんの恋人役(堀雄二)を付け加えるなど、それは、それとして充実した佳品に違いないとはいえ、人物の風格、人間模様の描出という点では、今一歩、この作品に及ばなかったと私は思う。とりわけ、丸山定夫と森雅之の「男泣き」の景色、竹下千恵子と京マチ子の「啖呵」の勢いに差が出たことは否めなかった。戦前を代表する文芸作品の中でも、屈指の名作であることを確認した次第である。
(2017.5.10)



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